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管理費等滞納者に対する競売請求の可否についての考察-区分所有法の検討-
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弁護士 山下 侑士
2011年4月10日
1 はじめに
分譲マンションなどで、ある住人(区分所有者)が多大な迷惑行為を行っている事例は、残念ながら少なからず見受けられます。一概に迷惑行為と言っても様々なものがありますが、区分所有法(*1)59条は、ある一定の場合に、管理組合法人等がその住人の有する区分所有権等の競売を請求して、強制的にその区分所有権等を奪うことができるとしています。
本コラムでは、区分所有者が管理費等を滞納していた場合を念頭に、法59条に基づく競売請求の可否につき検討を行います。
2.問題の所在
管理費等を滞納していた場合においては、法59条に基づく競売請求以外に、法7条に基づく先取特権の実行としての専有部分の競売等の方法も採ることができます。現に、「6」で述べるように、法59条の解釈においても、先取特権等に基づく管理費等の回収方法は念頭に置かれています。
しかし、先取特権に基づく競売の場合には、あくまでも管理費等の金銭債権の満足を図るものであるため、執行手続上、無剰余措置(民事執行法63条)(*2)等の適用を受けることになります。そのため、例えば、当該区分所有者が有する区分所有権に担保権が設定されているような場合には、競売することができないという事態に陥ります。
一方で、法59条に基づく競売請求は、区分所有者の共同生活の維持を図るため、当該区分所有者を区分所有関係から終局的に排除する目的で、区分所有法によって認められたものです。そのため、法59条に基づく競売の場合には、いわゆる『形式的競売』(*3)となります。したがって、この場合には、無剰余措置の適用はないため、区分所有権に担保権が設定されていることによって競売手続が妨げられることはありません。
このように、法59条に基づく競売請求に依る場合には、無剰余措置等の適用を受けないというメリットがありますが、他方で、区分所有法上の目的に沿った解釈・適用が採られることになるのです。
以下、その具体的内容について検討します。
3.区分所有法59条の要件
まず、法59条に基づく競売請求が認められるための要件を簡潔にまとめると、次のようになります(*4)。
① 区分所有者の共同の利益に反する行為をしたこと
② 区分所有者の共同生活上の障害が著しいこと
③ 他の方法によっては区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であること
以下、①~③の各要件をそれぞれ検討します。
4.「①区分所有者の共同の利益に反する行為をしたこと」の意義
(1)概要
区分所有者は、各自が区分所有する部分(専用部分)につき、自由に使用・収益・処分することができますが、「区分所有者の共同の利益に反する行為」はできないと定められています(法6条)。
ここでいう「区分所有者の共同の利益に反する行為」とは、一般的に次の3つに分けることができるとされています。
ア 建物等の保存に有害な行為
例えば、隣接する2個の専有部分を所有する区分所有者が隔壁を取り除いて1個の専有部分とする場合などが考えられます。
イ 建物等の不正使用行為
例えば、専有部分に危険物を置く行為や共用部分に私物を置く行為などが考えられます。
ウ 生活を妨害する行為
例えば、悪臭や騒音を発する行為、規約で使用目的を住居専用と定められている場合に専有部分を店舗や事務所として使用する場合などが考えられます。
(2)管理費等滞納について
それでは、管理費等を滞納したことは、「①区分所有者の共同の利益に反する行為をしたこと」に該当するのでしょうか。
東京地判平18・6・27判時1961・65によると、「一部の区分所有者が管理費等の支払をしない場合、その区分所有者は他の区分所有者の負担で共同使用施設等を利用することになる。このような事態は他の区分所有者の迷惑となることは明白であり、区分所有者の間で不公平感が生じ、管理費等の支払を拒む者が他にも現れることが予測され、最終的には、マンション等共同住宅全体の維持管理が困難となるものと考えられる。」として、上記①に該当するとしています。具体的な事案においては、約2年10か月で滞納額約117万7420円(*5)、約5年半で滞納額約170万円(*6)のケースで、上記①に該当するとしたものがあります。
したがって、管理費等の滞納の場合でも、上記①に該当する可能性はあるといえます。
5.「②区分所有者の共同生活上の障害が著しいこと」の意義
次に、管理費等の滞納が上記①に該当するとしても、「②区分所有者の共同生活上の障害が著しいこと」が認められなければなりません。法59条に基づく競売請求は、その区分所有者の区分所有権等を強制に剥奪するものであることから、(上記③と併せて)一定のハードルが課せられているのです。
裁判例の中には、滞納期間や滞納額からみてこの要件が欠けるとし、請求を認めなかったものがあります(*7)。
6.「③他の方法によっては...困難であること」の意義
ここでいう「他の方法」とは、法59条の競売請求以外の民事上の方法(法57条、58条の請求や法7条に基づく先取特権の実行としての専有部分の競売等)をいい、それ以外の方法(例えば告発(刑訴230条)、告発(刑訴239条)等)は含まないと解されています。
裁判例によると、具体的には、滞納管理費等に係る『支払督促の申立て』、『訴訟の提起』、『先取特権の実行』、滞納者の財産に対する『強制執行』、『和解の可能性』の有無等の要素が考慮されています。また、管理費等滞納のケースにおいて、法58条の専有部分使用禁止請求が「他の方法」に含まれるかについては、大阪高判平14・5・16判タ1109・253が、管理費等の滞納と専有部分の使用禁止(法58条)とは関連性がないことを判示しているため、否定に解すべきです。
7.まとめ
このように、法59条に基づく競売請求は、強制的にその区分所有者の区分所有権等を剥奪するという強力な効果を生じさせるため、要件に一定のハードルが設けられています。そのため、上記①~③の要件に該当するか否かについては、詳細にその事案を分析したうえで、場合によっては、綿密な計画を立てることが必要となります。また、法59条によって競売に至るまでには、(今回は省略しましたが)別途、複数の手続的な要件をクリアすることが不可欠です。
そのため、法59条に基づく競売請求を検討される場合には、弁護士に相談して、適切な措置を採ることをお勧めします。
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脚注
(*1)区分所有法:「建物の区分所有等に関する法律」(文中では、「法」と記しています。
(*2)無剰余措置(民事執行法63条):強制執行の対象財産の価値が低く、売却代金から差押債権者が請求債権について全く弁済を受けられないことが見込まれる場合には、その執行は原則として許されないことをいいます。具体的には、買受可能価額が、手続費用と優先債権との見込額の合計額を超えない場合がこれに当たります。
(*3)形式的競売:法律において、競売手続によって換価を行う旨を定めているものをいいます。この場合、目的物の換価を公正にするために競売制度を利用しただけであり、債権の満足を図るための競売とは性質が異なるとされています。
(*4)本コラムでは手続的な要件は省略しています。
(*5)東京地判平17・5・13判タ1218・311
(*6)東京地判平18・6・27判時1961・65
(*7)東京地判平16・10・29LLI/DB05934412など -
(*参考文献)
■稻本洋之助・鎌野邦樹著「コンメンタールマンション区分所有法(第2版)」(日本評論社、2004年)
■鎌野邦樹・山野目章夫「マンション法」(有斐閣、2003年)
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