コラム

災害時における労働問題~東北地方太平洋沖地震に関連して~

2011年04月
溝渕 雅男




  •   平成23年3月11日、未曾有の災害である東北地方太平洋沖地震が発生しました。被災地では、原発の問題や余震によって不安な状態が続いていることと思います。この度の震災により被害を受けた皆様に、心よりお見舞いを申し上げると共に、被災地の一日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。
     我々弁護士が少しでも復興のお役に立てるとすれば、法的紛争を未然に防止し、発生した紛争を早期かつ適切に解決することだと思います。
     今回は、地震等の災害時における法律問題のうち、個人・企業の両者に関わる労働問題について、若干ですが述べさせていただきます。

    1 災害に伴う欠勤・休業
     (1) 災害時において、会社は通常どおり事業を運営しているとしても、災害を原因として労働者が欠勤することが考えられます。
       労働者は、雇用契約に基づき労務を提供する義務を負っています(民法623条)が、災害による欠勤については、通常、労働者に過失がありません。したがって、労働者が災害によって欠勤したとしても、使用者はこれを理由に労働者を解雇することはできませんし、労働者に対して債務不履行を理由に損害賠償を請求することもできません。
      他方、災害を原因として労働者が欠勤した場合、当該欠勤については使用者にも責任がありませんので、使用者は、給与や休業手当(労働基準法26条)を支払う必要がないことになります。
     (2) 災害を原因として使用者が労働者を休業させる場合、使用者が休業手当を支払う必要があるか否かについてですが、一般的に、天災事変等の不可抗力の場合は、使用者の責に帰すべき事由がなく、休業手当の支払を要しないことになろうかと思います。東北地方太平洋沖地震に伴う休業に関する取扱いについては、厚生労働省から平成23年3月18日付で「平成23年東北地方太平洋沖地震に伴う労働基準法等に関するQ&A(第1版)」が公表されています(1ので、ご参照下さい。
      なお、使用者の責に帰すべき事由による休業に該当するか否かにかかわらず、事業主が休業についての手当を支払う場合、雇用調整助成金等を受給できることがありますので、ご留意下さい。また、東北地方太平洋沖地震被害に伴う雇用調整助成金の活用については、厚生労働省からQ&Aが公表されています(2ので、ご参照下さい。

    2 労災保険の適用
     勤務中に災害が生じて労働者が被害を受けた場合、労災保険は適用されるでしょうか。
     まず、労災保険の適用対象となる「業務災害」とは、「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡」をいいます(労働者災害補償保険法第7条1項1号)。この「業務上」に該当するためには、業務と傷害等による損害との間に因果関係があること(業務起因性)及び労働者が労働契約に基づく事業主の支配下にあること(業務遂行性)が必要とされます。
     地震等の天災地変が原因となって負傷した場合に業務起因性及び業務遂行性が認められるか否かですが、東北地方太平洋沖地震に関して、厚生労働省労働基準局労災補償部労災管理課長等による平成23年3月24日付事務連絡が出されています(3。同事務連絡に添付されたQ&Aにおいては、勤務中に地震や津波に遭遇して怪我をした場合、通常、業務災害として労災給付を受けることができるとされており、ここでは、業務起因性及び業務遂行性が比較的緩やかに解釈されていると言えます。
     なお、「労働者の通勤による負傷、疾病、傷害又は死亡」という「通勤災害」(労働者災害補償保険法第7条1項1号)の場合も労災保険の適用対象となります。

    3 会社の倒産
     災害の影響によって、会社が倒産手続を採らざるを得ない場合もあろうかと思います。破産であれば全従業員が解雇されることになりますが、民事再生・会社更生等の再建型の倒産手続であっても、一部従業員の解雇はやむを得ないものであり、解雇が有効となる場合が多いと考えられます。
     しかしながら、未払の賃金(給与・退職金等)が存在する場合、当該倒産会社の従業員は、独立行政法人労働者健康福祉機構から、未払賃金の80%(但し年齢に応じて上限額が定められている)につき立替払いを受けることができます。
     東北地方太平洋沖地震に関しては、厚生労働省労働基準局長による平成23年3月23日付「平成23年東北地方太平洋沖地震に伴う未払賃金の立替払い事業の運営について」(4において、対象となる事業主についての解釈等が記載されていますので、ご参照下さい。
    立替払いの対象となる賃金、立替払いの上限額や立替払いの手続については、労働者健康福祉機構のホームページ(5をご覧になるか、管轄の労働基準監督署にお問い合わせ下さい。

    4 その他
     以上述べた他にも、災害による労働問題には様々なものがあります。東北地方太平洋沖地震に関する労働問題については、厚生労働省のホームページに、関連情報が掲載されています(6
     種々の問題が早期・適切に解決され、一日でも早く復興が成し遂げられることを心からお祈りいたします。
  • 脚注
    (1 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000014tr1-img/2r98520000015fyy.pdf
    (2 http://www.mhlw.go.jp/general/seido/josei/kyufukin/a10-1.html
    (3  http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000015vli-img/2r9852000001653g.pdf
    (4 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000015rt9-img/2r9852000001607y.pdf
    (5 http://www.rofuku.go.jp/kinrosyashien/miharai.html
    (6 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000016eu3.html