コラム

中国ビジネス法務 「最前線」

2016年02月
谷口 由記

1.中国進出企業運営の法律問題・・・労働問題
 中国進出後の企業運営に伴う法律問題には、労働問題、債権回収問題、会社業態変更、M&Aや撤退の問題があります。今回は、主に労働問題を取り上げます。

2.労働者保護規定の整備・・・2008年の労働契約法制定

 日本人からみて、社会主義国家である中国では労働者保護が徹底されているような印象を受けますが、実際は国有企業改革により国有企業が解体されて私営企業が増えて企業間競争が激しくなり、労働者の待遇面では、労働法も制定(1995年施行)されているものの、企業に好都合な「短期雇用の雇止め」が認められ、労働者にとって最も重要な地位の安定性を欠いている等、労働者保護が不十分でした。漸く2008年の労働契約法の制定により、短期雇用(固定期間雇用)が認められなくなり、期間の定めのない雇用(無固定期間雇用)を原則とし、かつ、解雇事由の制限と経済補償金(退職金)の法定により労働者の地位の安定が保障されました。日本では非正規雇用の割合が増加していますが、中国では逆に短期雇用を認めず、長期雇用が保障されています。
 また、労働仲裁制度が確立し、労働者が処遇や解雇等の不当性を理由に労働争議仲裁委員会へ申し立てる案件も増加しており、それらの紛争の多くは調停や仲裁で解決され、一部は訴訟になっています。

3.企業の労働コストの増大

 長期雇用制度と経済補償金の確立により、日系企業の労働コストが増加して企業収益を押し下げる大きな要因となっています。更に、中国政府は向う10年で労働者の所得を2倍にする目標を立てましたので、日系企業でも労働コストが更に増大することが予想されます。

4.投資拡大か撤退かの選択

 労働コストの上昇による収益減少と中国経済の景気減速により中国からの撤退を検討する日系企業も出ています。しかし、撤退も日本とは異なり、多くの行政機関毎に手続と労働者へ経済補償金の支払いが必要で、期間と費用を要します。中国から撤退してアセアンに拠点を移そうとする企業もある反面、中国の巨大マーケットに展開できる製造・サービス業種では将来性を見込んで投資拡大策をとる企業もありますが、製造原価削減目的の進出は限界にきており、中国経済減速の不安定要因のリスクとの狭間で難しい判断が求められています。


(事務所報 №4 2015年12月号掲載)