コラム

「否決決議」の取消しを求める訴えの適法性

2016年06月
山下 侑士

「否決決議」は株主総会決議の 取消しの訴えの対象となるか

 会社法は、株主総会決議について、決議の取消事由に該当する瑕疵がある場合には、決議の日から3カ月以内に限り、その取消しを請求することができると規定していますが(831条1項)、議案を否決した決議(否決決議)が株主総会決議の取消しの訴えの対象となるかについては、これまで議論が行われていました。
 議論のポイントは、要するに、否決決議を取り消すだけの法律上の実益(これを「訴えの利益」といいます)が認められるか否かであり、これを認める見解からは、
❶ 役員解任の訴え(854条)のように、株主総会での否決決議(取締役解任決議が否決されたこと)が法律上の要件となっている場合には、否決決議を取り消す実益があること
❷ 総株主の議決権の10分の1以上の賛成を得られずに議案が否決されると、株主は当該議案の再提案を3年間制限されるが(304条ただし書)、否決決議が取り消されることにより、この制限を受けずに即時の再提案が可能となること
等が論拠として挙げられています。
 これに関し、従前の下級審裁判例では判断が分かれており(会社法施行前のものを含む)、最高裁の判断が注目されていました。
 以下、紙幅の都合上簡単に紹介します。


最高裁 平成28年3月4日判決

【 事案概要 】
・ A社の株主甲ら(A社の取締役でもある)は、A社に対し、A社臨時総会における甲らを取締役から解任する旨の議案を否決する株主総会決議について、会社法831条1項1号に基づき、その取消しを求めた。
 甲らに対しては、別のA社株主から、別途、会社法854条に基づく役員解任の訴えが提起されていた。
 甲らの狙いとしては、臨時総会における甲らの取締役解任の否決決議が取り消されることにより、会社法854条の要件を満たさないことになり、別訴の役員解任の訴えが却下される結果となることを意図したものと思われる。

【 判旨の概要 】 ※ 補足意見あり
 会社法は、会社の組織に関する訴えについて諸規定を置き(828条以下)、また、瑕疵のある株主総会等の決議についても、その決議の日から3箇月以内に限って訴えをもって取消しを請求できる旨を規定して法律関係の早期安定を図り(831条)、判決の効力等についても規定しているが(834条乃至839条)、それは、株主総会等の決議によって、新たな法律関係が生ずることを前提とするものである。
 一般に、ある議案を否決する株主総会等の決議によって新たな法律関係が生ずることはなく、当該決議を取り消すことによって新たな法律関係が生ずるものでもない。
 ある議案を否決する株主総会等の決議の取消しを請求する訴えは、不適法であると解するのが相当である(このことは、当該議案が役員を解任する旨のものであった場合でも異なるものではない)。


 最高裁は、今回の判決で、否決決議は株主総会決議の取消しの訴えの対象とならず、否決決議の取消しを求める訴えが不適法であることを明確に示しました。
 とくに千葉勝美裁判官の補足意見では、訴えの利益が認められるとする見解の上記論拠(❶及び❷)について、いずれも他の方法により処理が可能であるとしてこれを認めず、さらに、「このほか、会社法の規定等に基づき否決の決議取消訴訟の訴えの利益が問題となり得るような事例が生じたとしても、(略)根拠とされた規定等の合理的な解釈により、あるいは信義則や禁反言等の法理の適用で対処することができ、また、そうするべきであって、訴えの利益を無理に生じさせるような解釈をすべきではない」と指摘されており、否決決議が取消しの訴えの対象となる余地が事実上無いことを明らかにしたものといえます。


(事務所報 №8 2016年4月号掲載)