コラム

不正競争防止法の平成27年改正 ~ 営業秘密保護強化 ~

2016年08月
谷口 由記


1.平成27年7月3日に営業秘密保護強化を目的とした不正競走防止法の改正法案が可決成立し、同年7月10日から施行されました。近時、ベネッセ事件で小学生らの情報が大量に漏洩した事件や、新日鉄住金が保有する高機能鋼板の製造方法に関する技術秘密が韓国企業ポスコに漏洩し、東京地裁でポスコが新日鉄住金に300億円の賠償金を支払う和解が成立した事件等、日本企業が保有する顧客情報が社外へ漏洩する事件が跡を絶たず、技術立国日本の企業にとって生命線となる営業秘密管理法制の改善と、諸外国の営業秘密漏洩の罰則に比して我国の罰則が緩いことが指摘され、営業秘密の保護強化のための改正が行われました。

2.営業秘密は、事業者にとって有用な生産方法、販売方法その他の秘密情報で、
   ① 秘密管理性
   ② 有用性
   ③ 非公知性
 の3要件を備えることによって保護されます(不競法2条6項)。

3.今回の改正点として、
   ① 営業秘密侵害の転得者の処罰範囲の拡大
   ② 営業秘密侵害罪の未遂罪の新設
   ③ 営業秘密侵害品の譲渡・輸出入等の流通規制
   ④ 国外犯の範囲拡大
   ⑤ 罰金刑の上限額引上と海外重罰
   ⑥ 任意的没収規定
   ⑦ 非親告罪化
   ⑧ 不正使用の推定規定
   ⑨ 除斥期間延長
 が挙げられます。

4.以下、各改正点の要点を解説します。

(1) ①の営業秘密侵害の転得者の処罰範囲の拡大(第21条1項8号)
 不正の利益を得る目的で又はその保有者に損害を加える目的(図利加害目的)で営業秘密の不正開示が介在したことを知って、営業秘密を取得した転得者が、営業秘密を使用し又は開示する行為を刑事罰の対象に加える改正です。これまで第2次取得者(転得者)まで処罰対象にしていたのを、第3次以降の取得者(転得者)にまで拡大したもので、営業秘密が転々流通した場合への対応です。

(2) ②の未遂罪の新設(第21条4項)
 営業秘密侵害罪は既遂の場合だけが処罰対象でしたが、未遂も処罰対象とされました。
 但し法21条1項3号の領得行為は除かれます。

(3) ③の営業秘密侵害品の譲渡・輸出入等の流通規制(第2条1項10号、第21条1項9号)
 技術上の秘密を不正に利用して生産された物品の流通を規制することで営業秘密の保護を強化するため、利用した生じた物を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回路を通じて提供する行為を不正競争行為と位置づけて民事規制対象にし、かつ、刑事罰の対象にもしたものです。

(4) ④の国外犯の範囲の拡大(第21条6項)
 改正前も、国内事業者の営業秘密について、日本国外での不正使用や不正開示は日本の不正競争防止法の刑事罰の対象とされてきましたが、日本国外での不正取得や領得も対象に加えられました。これは海外のクラウドで保管されている営業秘密の海外からの不正アクセスによる取得や従業員の海外出張中の営業秘密の横領行為等を処罰できるようにしたものです。

(5) ⑤の罰金刑の上限引上げ(第21条1項・3項、第22条等)
 営業秘密侵害等の刑罰は、個人の場合は10年以下の懲役、1000万円以下の罰金、法人の場合は3億円以下の罰金でしたが、改正法は罰金額を個人は2000万円以下、法人は5億円以下と10億円以下(海外重罰)に上限を引き上げました。

(6) ⑥の任意的没収規定(第21条10項)
 刑法では没収の対象が物だけでしたが、営業秘密侵害による利益や債権を没収できることとし、また、没収や追徴により、損害賠償請求で被害者が被害回復をできない事態を避けるため、民事訴訟の状況や犯人の資力を考慮して没収追徴できる任意的な制度としました。

(7) ⑦の非親告罪化(第21条5項)
 改正前は営業秘密侵害罪を親告罪として、被害者の告訴がなければ刑事処罰できなかったのを、告訴なしでもできることに改正されました。刑事裁判で営業秘密が公開されないようにする手続は既に平成23年改正(第23条以下)で採用されています。

(8) ⑧の不正使用の推定規定(第5条の2)
 生産方法の特許の場合において、その生産物が新規物質の場合、当該特許を実施して生産されたことの立証責任が転換されていますが(特許法104条)、これと同趣旨で不正使用による立証を責任を公平に分担し、一定の要件の下で不正使用を推定する規定です。その要件は、
 ⅰ 生産方法に係る技術秘密である
  ⅱ 被疑侵害者によって不正に取得されたこと
 ⅲ 被疑侵害者がその生産方法を使って生産できる製品を生産していること
の3要件とされました。

(9) ⑨の除斥期間延長(法15条等)
 改正前は営業秘密の不正使用に対する差止請求権の消滅時効は3年ですが、除斥期間は不正使用開始時から10年とされていたのが、20年に延長されました。長期間経過後に侵害が発覚するケースへの対応策です。


(事務所報 №9 2016年5月号掲載)