コラム

タクシーをめぐる法規制と行政訴訟 ~最高乗務距離規制~

2016年11月
濱 和哲

 タクシー事業には、道路運送法に基づく事業の許可や運賃の規制を始め、多種多様な行政規制が存在している。タクシー事業は典型的な規制業種である。
 タクシーに対する規制の一つとして、「最高乗務距離規制」という規制がある。これは、タクシーが1乗務(出庫から帰庫までの間)においてタクシーを走行させることができる乗務距離の最高限度を定める規制である。
 最高乗務距離規制の歴史は古い。昭和33年ころ、猛スピードで市内を走り回るタクシーの存在が社会問題化しており、「神風タクシー」などと呼ばれていた。そのころ、東京大学の女子学生が神風タクシーにひかれて死亡するという痛ましい事故が発生し、この事故をきっかけに神風タクシーに対する規制が検討された。その後に検討、導入されたのが最高乗務距離規制の原型であるとされる。

 平成22年3月から6月にかけて、エムケイタクシーグループは、最高乗務距離規制には合理的な根拠がなく違法であるとして、東京地裁、大阪地裁、札幌地裁、名古屋地裁、福岡地裁に対し、規制の取消訴訟・差止訴訟・地位確認訴訟を提起した。
 当事務所は、これら一連の訴訟について、エムケイタクシーグループの訴訟代理人として関与し、被告(国)との間で、規制の不合理性に関し多数回にわたる主張・反論の応答を繰り返した。
 平成25年5月、名古屋地裁は、名古屋交通圏は最高乗務距離規制をするための要件を満たしておらず規制は違法であるとする判決を下した。その後、大阪地裁は、最高乗務距離を250Kmと算定した根拠に合理性がなく、規制は違法であるとの判決を下した。大阪地裁の判決に続いて、福岡地裁、札幌地裁もこれと同様の判決を下し、最後に残った東京地裁も規制は違法であるとの判決を下した。
 その後、被告(国)は、名古屋地裁、東京地裁の判決に対してのみ控訴したが(大阪地裁、福岡地裁、札幌地裁の判決は一審で確定)、名古屋高裁、東京高裁はいずれも控訴人(国)の控訴を棄却した。
 国は、東京高裁判決に対しては最高裁に上告せず、名古屋高裁判決に対してのみ上告受理申立をしていたが、それから約1年半が経過した今年1月、最高裁は国の上告受理申立を不受理とする決定をした。これにより、平成22年3月に始まった一連の最高乗務距離訴訟は、約6年の審理を経て、エムケイタクシーグループの請求を認める内容で確定することとなった。
 最高乗務距離規制は、平成21年以降、タクシー業界に対する再規制強化が進む中で登場した規制であった。しかし、一連の訴訟の結果をうけ、現在、最高乗務距離規制は事実上撤廃されたのと同様の状況にある。

 昨今、観光バスの悲惨な事故があり、バスやタクシーといった公共交通機関に対する安全性や規制のあり方が問われている。しかし、規制を強化すれば事故がなくなるわけではない。また、規制を強化することによる弊害にも目を配る必要がある。
 タクシー業界には、Uber(ウーバー)といった新たな配車サービスが登場するなど、業界自体が大きく変わる兆しがあり、また、自動運転技術の進化により自動運転タクシーの試験化も検討されている。
 タクシー業界に対する規制のあり方全体が問われる時期に来ている。


(事務所報 №8 2016年4月号掲載)