コラム

株主総会を開催しないことのリスク

2016年12月
溝渕 雅男

 会社法は、いくつかの事項について、株主総会の決議によって定めなければならないとしている。例えば、取締役の選任、会社の基本的ルールを定めた定款の変更等は、いずれも株主総会を開催し、決議をする必要がある。
 しかし、中小企業の中には、株主総会を開催したことが一度もないという会社もある。また、株主総会で決議をしたという議事録は存在しても、実際には、株主総会の招集通知がなされておらず、株主総会が開催されたという事実もないということが多い。むしろ、これまでの私の経験からすれば、中小企業では、法律に従って適切に株主総会を開催していることの方が少ないのではないだろうか。


 オーナー兼経営者が株式を100%保有している場合は、株主総会を実際に開催していなくても、トラブルになることは少ない。しかし、複数の株主が存在する場合、適切に株主総会を開催し、決議をしていないということは、時として、大きなトラブルを招く原因になる。
 東京地裁平成27年5月25日判決の事件は、株主総会が開催されていなかったことが一因となって、紛争に発展した事案である。
 同事件では、取締役2名が原告となり、取締役としての報酬が未払であるとして、会社を訴えた。株式会社において、取締役の報酬は、定款又は株主総会の決議によって定めることとされている(会社法361条1項)。しかしながら、この事件の会社(被告)では、取締役の報酬について、定款の定めがなく、かつ、株主総会の決議も存在しなかった。
 そのため、会社は、取締役の報酬を支払うべき法律上の原因がないとして、取締役である原告らに対する報酬の支払を拒絶し、逆に、原告らに対して過去に取締役の報酬として支払った金銭の返還を求めて反訴(被告が原告を訴えること)を提起した。ちなみに、この事件の原告となった取締役らは、会社の資金繰りが苦しくなったときに会社に出資をして株主になっており、その他の株主は、創業者兼代表取締役や従業員らであった。
  結論として、裁判所は、同事件の原告らの請求を認め、被告である会社に対し、取締役としての報酬を支払うよう命じる判決を下した。また、被告である会社の原告らに対する反訴請求は認めなかった。
 裁判所は、そのような判断をした理由として、当該事件において、原告らに対して一定額(原告らが請求した額)の取締役の報酬を支払うことについて、「全株主の同意」があったと認められるような事情が存在したからであると述べている。
 「全株主の同意」があったと言えるか否かは、個別の事件の事実関係に基づいて左右されることになる。上記事件においては、「全株主の同意」があったとされたが、判決を読んでみると、本当に「全株主の同意」があったと言えるかは微妙である。


 いずれにせよ、ここで私が言いたいのは、適切に株主総会を開催していないことのリスクである。上記事件では、取締役である原告らからすれば、「全株主の同意」があったことを立証しない限り、自らの報酬請求すら認められない可能性があったということになる。
 上記事件は、株主同士が経営方針等を巡って仲違いしたことが発端となっている。「うちの会社は、株主同士が揉めることはないから大丈夫ですよ」という方もいる。しかし、株式が相続されることもあれば、新株が発行されることによって新たな株主が登場することもある。
 取締役の報酬に限らず、株主同士が揉めていない時に、適切に株主総会を開催し、決議をしておくことが重要なのである。


(事務所報 №13 2016年10月号掲載)