コラム

特許法一部改正 (平成27年法律55号) 職務発明制度

2017年01月
谷口 由記

1.はじめに
 特許法35条の職務発明に関する規定が改正された。東京地裁が平成16年に青色発光ダイオードの発明者中村修二氏に600億円の超高額の職務発明の対価を認定し(請求額が200億円のため判決は日亜化学に200億円の支払いを命じた)、世間をアッと言わせ、その控訴審の東京高裁では一転して8億円で和解が成立した。200億円はメジャーリーグの選手にも敗けない報酬であったが、以後は超高額の判決は出ていない。
 特許法35条は従業者が職務として行った発明の権利(特許を受ける権利)は発明者である従業者に帰属することを認めつつ、従業者の会社への予約承継を認め、その場合は会社は従業者に相当の対価を支払わなければならないと規定し、平成16年改正で会社に対し対価を決定する基準の開示や従業者との協議、従業者からの意見の聴取等の透明性をもった合理的な算定方法を定めることが必要とし、それが不合理な場合は裁判所が対価を定める(35条5項)とされたが、近時、経団連が職務発明の会社帰属への改正を要請したことも一因となり、職務発明の使用者への原始帰属を可能とする改正がなされた。

2.改正点

(1) 職務発明について「勤務規則等で特許を受ける権利を使用者(会社)に帰属することを定めた場合は使用者に帰属する」ことに改正され(35条3項)、勤務規則等で会社に原始的に帰属することを定めることができ、定めなければ、従来と同様に特許を受ける権利は従業者に帰属し、使用者は無償の通常実施権を有し、勤務規則により使用者に予約承継させることが可能である。

(2) 特許を受ける権利を会社に承継させた場合、これまでの「相当の対価請求権」は、「相当の金銭その他の経済上の利益を受ける権利」に改正された(35条4項)。金銭のほか、金銭以外の経済上の利益として、使用者負担による留学の機会の付与、法令及び就業規則所定の日数・期間を超える有給休暇の付与、職務発明に係る特許権についての専用実施権の設定又は通常実施権の許諾が挙げられている。

(3) これまでは相当の対価であったが、改正法では「相当の利益」と改め(35条5項)、相当の利益の内容の決定の基準及びその開示や従業者との協議、意見聴取を考慮して透明性のある合理的なものでなければならない。

(4) 経済産業大臣は発明を奨励するため産業構造審議会の意見を聴いて、開示・協議・意見聴取の状況に関する指針(ガイドライン)を定め公表すると規定された(35条6項)。

(5) 職務発明の改正規定は、実用新案の職務考案及び意匠の職務意匠の場合にも準用される(実案法11条3項、意匠法15条3項)。

(6) 改正法は平成28年4月1日の施行で、同月22日に経産大臣から職務発明規程の指針(ガイドライン)が公表され、内容は特許庁ホームページに掲載されている。

3.企業の対応の必要性

 企業としてはその定めている職務発明規程を、職務発明の帰属について企業に属することに改正すべきことが求められ、「職務発明については、発明が完成した時に、会社が特許を受ける権利を取得する。」と定めておけばよい。その定めを追加しない場合も、従前どおり予約承継により会社は特許を受ける権利を取得して出願することができる。


(事務所報 №13 2016年10月号掲載)