コラム

遺留分制度の改正と事業承継

2019年10月
西 祐亮(nishi)

1.遺留分制度とは

 遺留分制度とは、一定範囲の相続人(兄弟姉妹以外の相続人)に一定割合の相続権を保障する制度です。原則として、被相続人(死亡した人)は、贈与等により自己の所有する財産を自由に処分することができます。

 しかし、被相続人による自由な財産処分が無制限に行われた場合、被相続人が相続人以外の人に全財産を贈与することにより、相続人が遺産を一切相続できなくなるおそれがあります。

 その場合、仮に相続人(特に被相続人の配偶者)が遺産を生活費として使用する予定であったにもかかわらず、相続人が遺産を一切受け取れないという事態が発生した場合、その相続人の生活が成り立ちません。そこで民法(相続法)において遺留分に関する規定が明記されています。


2.相続法改正前の遺留分制度が中小企業の事業承継の弊害になっていたこと

 中小企業の経営者の場合、その個人資産の大部分が自社株式や事業用資産であることも少なくありません。相続法改正前は、事業承継にあたり、経営者が贈与等により、これらの個人資産を後継者に集中させようとしても、他の相続人が自己の遺留分を主張すれば、遺留分を主張した相続人が自社株式や事業用資産の一部を取得することとなり、事業承継に支障をきたすおそれがありました。

 平成21年に「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」が施行され、後継者と現経営者の推定相続人(相続人になる予定の人)全員の書面による合意があれば、経営者から後継者に贈与等された自社株式を遺留分算定の際の基礎となる財産から除外することが可能となりました。

 しかし、相続人全員の書面による合意が必要であるため、一部の相続人が同意しなければ利用できません(もっとも、推定相続人全員の同意が得られる場合は、現経営者から後継者に贈与等された自社株式について、①遺留分算定基礎財産から除外(除外合意)、②遺留分算定基礎財産に算入する価額を合意時の時価に固定(固定合意)をすることができるため、同制度の積極的な活用が望まれます。

 そのためには、現経営者が早い時点で事業承継に着手し、後継者が誰になるかについて推定相続人との間で共通の認識を形成する必要があります)。


3.相続法改正による影響

 上記のとおり、改正前の遺留分制度は、円滑な事業承継の弊害となっていましたが、先般、相続法が改正されたことにより遺留分制度が大きく変化しました(なお、改正後の遺留分制度は、令和元年7月1日以降に被相続人が死亡した場合に適用されます)。

 重要な変更点は、

①遺留分侵害額を金銭で支払えること(改正前は、原則、現物を返還する必要がありました)、
②遺留分侵害額の支払いについて、裁判所が相当の期限を許与できること、
③遺留分侵害額を算定するにあたって、考慮に入れる相続人に対する遺贈・生前贈与等の範囲が改正前よりも制限された(特別受益に該当する場合でも原則10年前の贈与のみ算定の基礎となる財産に該当するとされました)、

といった点があげられます。


 相続法改正により、後継者は自社株式や事業用資産を全て承継したとしても、他の相続人に自社株式や事業用資産の現物を渡す必要はなく、金銭により解決されることとなりました。また、遺留分侵害額の支払いについて、裁判所が相当の期限を許与できることから、後継者は即座に支払金を用意する必要はなく、計画的な支払いを行うことが可能になるものと考えられます。

 今般の相続法改正により、事業承継が円滑に行われることが期待されます。


(2019.9.26)