コラム

最近の最高裁判例のご紹介

2021年09月
林 祐樹

 


最近の最高裁判例(いずれも裁判所ウェブサイトより)の中から、企業法務と関連性のあるものを3つご紹介します。

 

1 最高裁令和3年7月19日判決(令和元年(受)第1968号)

(1) 事案の概要

会社が監査役(監査の範囲が会計に関するものに限定されていました)であった者に対し、任務懈怠により従業員の継続的な横領の発覚が遅れて損害を被ったとして、損害賠償を請求した事案です。

 

(2) 判旨の概要

原審は、「計算書類等の監査において、会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかであるなど特段の事情のない限り、計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認していれば、任務を怠ったとはいえない」と判断しました。

これに対し最高裁は、監査役(会計限定監査役を含む)の「監査が、計算書類等の情報が適正に表示されていることを一定の範囲で担保し、その信頼性を高めるために実施されるもの」としたうえで、監査役(会計限定監査役を含む)は、「会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかでなくとも、計算書類等が会社の財産及び損益の状況を全ての重要な点において適正に表示しているかどうかを確認するため、会計帳簿の作成状況等につき取締役等に報告を求め、又はその基礎資料を確かめるなどすべき場合があるというべきである」とし、「会計限定監査役は、計算書類等の監査を行うに当たり、会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかでない場合であっても、計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認しさえすれば、常にその任務を尽くしたといえるものではない」と判断し、口座に係る預金の重要性の程度、その管理状況等の諸事情に照らして適切な方法により監査を行ったといえるか否かにつき更に審理を尽くさせるべく、審理を原審に差し戻しました。差戻しの趣旨(当該事案における監査役の任務懈怠の検討方法)に関して、草野耕一裁判官の補足意見があります。

監査役の任務を検討するうえで参考となります。

 

2 最高裁令和3年5月25日判決(令和2年(受)第170号ほか)

(1) 事案の概要

懲罰的損害賠償を命じた米国(カリフォルニア州)の判決について、日本での執行判決を求めた事案です。米国の判決は、27万5000米ドル余りの請求を認容しましたが、うち9万米ドルが懲罰的損害賠償であり(注:日本において懲罰的損害賠償は認められていません)、米国の強制執行に基づき約13万5000米ドルが回収されていたため、残り約14万米ドルについて執行判決を求めました。

 

(2) 判旨の概要

原審は、懲罰的損害賠償部分は民訴法118条3号の公の秩序に反するものであるが、カリフォルニア州において懲罰的損害賠償部分に係る債権が存在することまで否定されるものではないから、上記13万5000米ドルは債権全体(約27万5000ドル)に充当されたとみるほかなく、残額約14万米ドルは、懲罰的損害賠償部分を除く部分(約18万5000米ドル)を超えないから、残額の債権の行使を認めても公の秩序に反しない、と判断しました。

これに対し最高裁は、懲罰的損害賠償部分「が含まれる外国裁判所の判決に係る債権について弁済がされた場合、その弁済が上記外国裁判所の強制執行手続においてされたものであっても、これが懲罰的損害賠償部分に係る債権に充当されたものとして上記判決についての執行判決をすることはできないというべきである。なぜなら、上記の場合、懲罰的損害賠償部分は我が国において効力を有しないのであり、そうである以上、上記弁済の効力を判断するに当たり懲罰的損害賠償部分に係る債権が存在するとみることはできず、上記弁済が懲罰的損害賠償部分に係る債権に充当されることはないというべきであって、上記弁済が上記外国裁判所の強制執行手続においてされたものであっても、これと別異に解すべき理由はないからである。」として、残額14万米ドルから懲罰的損害賠償部分を控除した約5万米ドル部分について執行判決をすべきと判断しました。

懲罰的損害賠償を含む外国の判決に基づいてわが国で強制執行を検討する場合に参考となります。

 

3 最高裁令和3年1月22日判決(令和元年(受)第861号)

(1) 事案の概要

土地の売買契約の売買代金を差し押さえた者(差押債権者)が、第三債務者(土地の買主)に対し、売買代金の取立てを求めましたが、第三債務者は、土地の売主に対する損害賠償請求権を有するとし、当該損害賠償請求権と土地の売買代金との相殺を主張しました。当該損害賠償請求権には、土地の売買契約の履行を求めるための弁護士費用が含まれています。

 

(2) 判旨の概要

原審は、弁護士費用を含めて債務不履行に基づく損害賠償請求権を認め、売買代金は相殺によって消滅したと判断しました。

これに対し最高裁は、「契約当事者の一方が他方に対して契約上の債務の履行を求めることは、不法行為に基づく損害賠償を請求するなどの場合とは異なり、侵害された権利利益の回復を求めるものではなく、契約の目的を実現して履行による利益を得ようとするものである。また、契約を締結しようとする者は、任意の履行がされない場合があることを考慮して、契約の内容を検討したり、契約を締結するかどうかを決定したりすることができる。加えて、土地の売買契約において売主が負う土地の引渡しや所有権移転登記手続をすべき債務は、同契約から一義的に確定するものであって、上記債務の履行を求める請求権は、上記契約の成立という客観的な事実によって基礎付けられるものである。そうすると、土地の売買契約の買主は、上記債務の履行を求めるための訴訟の提起・追行又は保全命令若しくは強制執行の申立てに関する事務を弁護士に委任した場合であっても、売主に対し、これらの事務に係る弁護士報酬を債務不履行に基づく損害賠償として請求することはできないというべきである。」と判断しました。

不法行為に基づく損害賠償請求の場合、認容額の10%程度が弁護士費用として賠償範囲に含まれるのが一般的ですが、債務不履行の賠償範囲に弁護士費用が当然に含まれるわけではないという点で参考となります。