コラム

特別寄与料制度の留意点

2022年01月
青木 晶子

第1 特別寄与料制度について

特別寄与料制度は、相続人の親族のうち相続人ではない者が被相続人の療養看護等に努めた場合に、相続人に対し、その貢献に応じた金銭の支払いを請求することができる制度です。2018年の民法改正で新設され、2019年7月1日以降に開始した相続から適用されます。

特別寄与料の請求が認められる要件は、①:請求権者が被相続人(亡くなった方)の親族であり相続人ではないこと、②:無償で療養看護等を提供したこと、③:②によって被相続人の財産が維持又は増加したこと、④:②が特別の寄与にあたることであり、実務上、特に問題になる要件は、④「特別の寄与」の該当性です。

従来の寄与分制度(被相続人に対して療養看護等の貢献をした「相続人」が相続財産から自己の相続分を超えて分配を受けることを認める制度。民法904条の2。)の要件である「特別の寄与」は、一般的に、寄与の程度が被相続人と相続人の身分関係に基づいて通常期待される程度(通常の寄与)を超える高度なものを指します。高度な貢献が要求される根拠は、相続人に通常期待される程度の貢献については、相続分に基づく財産の取得をもって満足すべきという考え方に基づきます。

一方、特別寄与料制度における「特別の寄与」(民法1050条第1項)について、特別寄与料の請求者は、被相続人に対して民法上の義務(民法730条、752条、877条参照)を負わないため、従来の寄与分制度の考え方と同様に「特別の寄与」を解釈することは相当でありません(民法(相続関係)部会資料23-2・23頁にも同趣旨の指摘がなされています。)。したがって、特別寄与料制度における「特別の寄与」とは、従来の寄与分制度における「特別の寄与」とは異なり、一定程度以上の寄与、つまり、「その者の貢献に報いるのが適当だといえる程度に顕著な貢献」があったことを意味すると考えられます。

 

第2 特別寄与料制度の留意点

特別寄与料の請求が認められるためにはいくつかのハードルが存在します。

1点目は、「特別の寄与」に該当しないと判断される可能性が高いという点です。「特別の寄与」の該当性については今後の実務の判断の蓄積が待たれますが、少なくとも前述のとおり、単なる扶養を超えた上記の『顕著な貢献』といえる程度の貢献が必要になります。

2点目は、請求したい相続人から特別寄与料を獲得できない可能性があるという点です。相続人が複数いる場合、特別寄与者は、その選択に従い相続人の1人又は数人に対して特別寄与料を請求することができます。もっとも、特別寄与者が相続人の1人に対して請求することができる金額は、特別寄与料の総額に当該相続人(請求の相手方)の法定相続分又は指定相続分を乗じた額にとどまり、特定の相続人に全額を請求することはできません(民法1050条第5項)。例えば、被相続人甲、相続人A及びB(いずれも甲の子)、特別寄与者C(相続人Aの配偶者)がおり、Cは、配偶者のAではなく、Bに対してのみ特別寄与料を請求したいと考えていたとします。このとき、被相続人が『全財産をAに相続させる』という遺言を残していた場合、Cは相続分を有しないBには請求できず、Cの意向に反して配偶者のAにしか請求できないという結論になります。

3点目は、証拠の確保が困難であるという点です。特別寄与料額の立証責任は、特別寄与者(請求者側)にありますが、特別寄与料の制度は、2018年に新設されたため、それ以前の時期から特別寄与料請求を想定した準備をしていた方は少なく、額の立証で行き詰まるケースが多く発生する可能性があります。もちろん厳密な証拠がない場合でも、調停の申立てを行うことは可能ですが、介護の労力に見合う程度の特別寄与料の支払を内容とする調停が成立するか否かは不透明であり、仮に調停を不成立にして審判へ移行したとしても請求額全額が認められる可能性は低いといえます。

以上の留意点を十分に考慮した上で、特別寄与料額の制度だけではなく、遺言書や生前贈与などの活用も視野に入れて対策を考えることが必要です。