COLUMNS

コラム

パワーハラスメント防止措置の義務化について

2022年08月

弁護士: 松本 実華

分 野: 一般労働相談

 令和4年4月1日より、中小企業を含む全企業において、パワハラ防止措置をとることが義務付けられることとなった。パワハラは、企業にとって重要な人材を失いかねない問題であると同時に、紛争化すれば損害賠償責任を負うリスクや風評被害を受けるリスクが存在する重大な問題である。以下では、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)を参考に、企業に求められるパワハラ防止措置について説明する。

1 パワハラの意義等の周知

 パワハラを行う者は、自身の行為がパワハラ(①職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより③労働者の就業環境を害するもの)に該当すると認識していないことが多い。そこで、パワハラ予防の第一歩として、どのような行為がパワハラに該当するかを労働者に認識させる必要がある。

 具体的には、就業規則等で、パワハラの意義・パワハラに対し厳正に対処するという方針とその内容(懲戒規定等)を明記し、周知する必要がある。また、就業規則だけでなく、社内報やパンフレットを用いた周知や研修を行う等の方法も有用である。

2 相談に適切に対応するための体制整備

 パワハラを受けた被害者は日常的に精神的ダメージを受けており、また、パワハラが認められる職場では、当該被害者だけでなく周りの労働者の就業環境も害されていることが多い。そしてその状態は、企業がこれを解消する措置をとるまで続くのであり、企業の対応が遅れれば遅れるほど、被害は拡大していく。そのため、パワハラ事案を早期に発見し、早期に就業環境を正常な状態に回復するための体制を整えなければならない。

 まず、早期発見のため、相談対応の窓口を設ける(担当者を決める)。労働者が相談窓口の存在を知らなければ問題の早期発見は不可能であるから、労働者に対する周知も必須である。面談だけでなく電話やメール等の方法で相談することができる方が望ましい。

 次に、相談担当者に対し、実際に相談があった場合を想定した指導や研修を行うことも必要である。相談者は、事案に応じて、誰に聞き取りを行うのか、行為者に対し間接的に注意を促すべきなのか直接的に注意を促すべきなのか等を判断しなければならないし、相談者が精神的ダメージを受けていることにも配慮した対応(但し、相談担当者はあくまでも中立的な立場でなければならない)が求められるからである。

3 相談に対する迅速かつ適切な対応

 パワハラの相談があった場合、①事実関係を迅速かつ正確に確認し、②パワハラの事実が確認できた場合、速やかに被害者に対する配慮のための措置(行為者と引き離すための配置転換や行為者の謝罪等)をとると同時に、③行為者に対する適正な措置(懲戒処分等)をとる必要がある。被害者及び行為者に対する措置は、被害者の希望にも応じて検討するべきであるし、行為者に対しては、なぜ当該行為がハラスメントに該当し問題があるのかを真に理解させることも重要となる。

 また、パワハラの事実が確認できたか否かにかかわらず、改めてパワハラに関する方針を労働者に周知することで、その後のパワハラ防止につながる。

4 その他の措置

 企業がパワハラを早期に発見するためには、労働者が安心して相談できる環境を作らなければならない。相談の際には相談者や行為者のプライバシーは保護されることを、労働者に周知しておく必要がある。

 また、当然であるが、企業は、労働者がパワハラに関する相談を行ったことや相談対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対し不利益な取り扱いをしてはならないし、そのことを労働者に周知しておく必要がある。

以上

トップコラムパワーハラスメント防止措置の義務化について

Page Top