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コラム

公益通報者保護法の改正について

2022年02月

弁護士: 徳山 慶太

分 野: 内部統制・企業統治

1 はじめに

 令和4年6月1日から、公益通報者保護法の一部を改正する法律(以下、「改正法」といいます。)が施行されます。改正法による変更点は多岐に亘りますが、本稿では、事業者が対応する必要のある主な変更点についてご紹介します。

2 公益通報者保護法の概要と改正の背景

 企業不祥事は、その企業の内部者による通報を契機として発覚することも少なくありません。

 公益通報者保護法は、企業の内部者が公益のために通報を行ったことを理由として、解雇などの不利益な取扱いを受けることがないようにし、通報者を保護する制度を定めたものです。

 もっとも、改正前の公益通報者保護法においては、内部通報制度等を設けることが義務付けられていないなどの問題点があり、実効性に欠けるとの指摘がされていました。

 改正法では、改正前の公益通報者保護法における問題点を是正し、公益通報者保護制度をより実効的な内容にしました。

3 公益通報対応業務従事者指定義務及び公益通報対応体制整備義務

⑴ 義務の概要と義務違反の場合の措置

 事業者は、常時使用する労働者の数が300人以下の事業者を除き、公益通報対応業務従事者指定義務及び公益通報対応体制整備義務を負います(改正法11条1項~3項。常時使用する労働者の数が300人以下の事業者は努力義務にとどまります。)。

 事業者がこれらの公益通報対応業務従事者指定義務及び公益通報対応体制整備義務を十分に果たしていない場合、指導や勧告等を受け(改正法15条)、勧告に従わない場合には、社名等を公表されるなどの措置を受けることがあります(改正法16条)。

 

⑵ 公益通報対応業務従事者指定義務

 事業者は、内部通報に適切に対応するための公益通報対応業務に従事する者(以下、「公益通報対応業務従事者」といいます。)を定めなければなりません(改正法11条1項)。

 公益通報対応業務従事者又は公益通報対応業務従事者であった者は、正当な理由なくその公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはならないという守秘義務を負います(改正法12条)。当該守秘義務に違反して公益通報者に関する情報を漏らした場合、30万円以下の罰金が科される可能性があります(改正法21条)。

 

⑶ 公益通報対応体制整備義務

 事業者は、公益通報対応業務従事者を定めるほか、公益通報に適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置(例えば、内部通報の窓口設定、調査、是正措置等)をとらなければなりません(改正法11条2項)。

4 保護対象となる範囲の拡大

⑴ 通報者の範囲の拡大

 改正前の公益通報者保護法では、会社を退職した元従業員や役員などについては、公益通報者として保護される範囲には含まれていませんでした。しかし、このような者は、企業不祥事を知り得る立場にあることが多く、公益通報の保護対象とすることが要請されていました。

 そこで、改正法においては、公益通報者として保護される者として、退職後1年以内の元従業員と役員が追加されました(改正法2条1項等)。

 

⑵ 公益通報の範囲の拡大

 改正前の公益通報者保護法では、保護対象となる公益通報の範囲は、刑事罰の対象となる事実(法律が定める犯罪行為)のみでした。もっとも、行政罰の対象となる事実に関する企業不祥事によっても、国民生活の安全・安心が損なわれることから、行政罰の対象となる事実も公益通報の範囲に含めるべきであることが指摘されていました。

 そこで、改正法においては、行政罰の対象となる事実も、公益通報の範囲に含まれることになりました(改正法2条3項1号)。

 

⑶ 禁止される通報者の不利益取扱いの範囲の拡大

 改正前の公益通報者保護法でも、公益通報を理由として通報者を解雇するなどの不利益な取扱いをすることは、禁止されていました。しかし、公益通報により事業者に損害が生じた場合における通報者の免責に関する規定がなく、不祥事を知った者が、事業者から損害賠償請求をされることを懸念して、通報を躊躇してしまうおそれがあると指摘されていました。

 そこで、改正法においては、事業者が公益通報により損害を受けたことを理由として、公益通報者に対して損害賠償請求をすることはできない旨の規定が新たに設けられました(改正法7条)。

5 おわりに

 改正法の施行(令和4年6月1日)に向けて、適切な体制整備を進めることが期待されています。この点については、消費者庁のサイト(https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/overview/)等も参考になります。

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