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コラム

認定給与について

2021年07月

弁護士: 元氏 成保

分 野: 税務調査対応

 法人が特定の役員に対してした金員の支出または経済的利益の供与のうち、法人が役員に対する給与として経理処理していないものについて、課税庁がこれを給与と認定することは、一般に認定給与といわれています。これは、法律上定義付けられた概念ではなく、課税実務上使用され定着してきた運用であり、その適否の基準について曖昧なままに実務ばかりが先行している感が否めません。

 

 ある役員に対する利益の移転が認定給与とされた場合、それを損金に算入することが認められないばかりか、法人は源泉所得税の納付義務を負い、かつ、事案によっては併せて重加算税が賦課されるケースも多く、法人の負担は看過できないものとなります。

 

 いわゆる認定給与が問題となる典型的場面は、法人が役員に対して物品その他の資産を贈与し、または個人的費用を負担した場合、あるいは役員等に対して機密費、接待費、交際費、旅費等の名義で支給したが、実際にその法人の業務のために使用したことが明らかでないような場合であり、その他、法人税基本通達9-2-9にもいくつかの認定給与の具体例が列挙されていますが、実務上、例えば役員が法人の金員を横領した場合のように、法人の意思に基づかず、むしろその利益の移転が法人の意思に背くと思われるものであっても、これが給与と認定されることがあります。

 

 取締役(代表ではない)が会社の金員を横領したところ、課税庁がこれを同役員に対する給与と認定して課税したという事案について、国税不服審判所平成3057日裁決は、横領金の認定給与該当性を検討するにあたっては、まず、横領行為をした役員の当該法人における地位や実質的権限に着目し、当該役員が当該法人の経営の実権を掌握し、法人を実質的に支配しているような立場にあると認められるのであれば、実質的に、役員がその地位及び権限に対して受けた給与等であるという前提の下、当該役員の地位や権限を検討し、同人が会社の実権を掌握し、あるいは会社を実質的に支配していたとは認められないとして、認定給与該当性を否定しました。

 

 このように、課税実務においては、横領金の認定給与に関して、横領をした役員がいかなる権限を有していたかが議論されることがありますが、横領者が有する権限に関わらず、会社が容認しているとは考えられない横領金を給与と認定するなどという課税手法は、一般的な感覚からすると理解され難いものです。上記の裁決は、結論においては妥当であると思われますが、その理由付けについては疑問が残ります。なお、このような役員に対する横領金を、同役員に対する貸付金として処理するという対応を採る事例も見られます。

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