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コラム

一部弁済と時効の中断(更新)に関する最近の判例

2021年07月

弁護士: 西 祐亮

分 野: 一般民事

1 はじめに

 民法では、消滅時効という制度が存在しますが、債務者が弁済等の方法で債務の存在を承認した場合、消滅時効は「更新」(改正前民法では「中断」)することが規定されています。

 

 今回は、弁済による債務の承認を理由とする消滅時効の中断の成否に関する最近の判例として、令和2年12月15日の最高裁判決(最高裁判所第3小法廷判決/令和2年(受)第887号 )を紹介します。現行民法においても、「承認」があったときから時効の更新が認められる(現行民法152条1項)ことには改正による変更がないため、現行民法下でも先例となる判例です。

2 事例

 X(原告)が、Y(被告)に対し、①平成16年に250万円、②平成17年に400万円および③平成18年に300万円の金銭を貸しつけた。Yは、④平成20年に、80万円を弁済したが、弁済の際、④の弁済が①~③のいずれの債務に対するものかを指定しなかった。その後、Xは、平成30年に①~③の残額計870万円を請求した。

3 解説

 本件では、Xは弁済(平成20年)から10年が経過した平成30年に残額の請求を行っているため、時効消滅の成否が問題となります。

 

 この点につき、④の弁済が①~③の全ての債務の「承認」と認められる場合は、①~③の全ての債務につき、時効の中断が認められることとなります。一方で、複数の債務が存在する状況で一部の債務についてのみ弁済する場合、かつ、どの債務に対する弁済とするのかについて当事者が指定をしない場合は、法定充当(改正前民法489条、現行民法488条4項)の規定が適用されることとなります。具体的には、本件では、④の弁済は、①の債務の弁済に充当されます。この場合、④の弁済は①に対する弁済(即ち、①の債務の承認)の意味しかないとすると、②及び③については時効消滅が成立します(原判決である東京高裁令和2年1月29日判決はこの見解を採用しました)。

 

 これに対し、最高裁は、次のように判示し、全ての債務についての「承認」を認めました。

 

 「同一の当事者間に数個の金銭消費貸借契約に基づく各元本債務が存在する場合において、借主が弁済を充当すべき債務を指定することなく全債務を完済するのに足りない額の弁済をしたときは、当該弁済は、特段の事情のない限り、上記各元本債務の承認(民法147条3号)として消滅時効を中断する効力を有すると解するのが相当である。なぜなら、上記の場合、借主は、自らが契約当事者となっている数個の金銭消費貸借契約に基づく各元本債務が存在することを認識しているのが通常であり、弁済の際にその弁済を充当すべき債務を指定することができるのであって、借主が弁済を充当すべき債務を指定することなく弁済をすることは、特段の事情のない限り、上記各元本債務の全てについて、その存在を知っている旨を表示するものと解されるからである。」

 

 今後、同種の事例が現れた場合、どのような場合に「特段の事情」が認められるのかが問題となりますが、判決文からは「借主は、自らが契約当事者となっている数個の金銭消費貸借契約に基づく各元本債務が存在することを認識しているのが通常であ(る)」との評価を妨げる事情(他の債務を認識していないこと)が「特段の事情」に当たるものと解されます。

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