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タックスヘイブンとは何か?

2016年09月

弁護士: 濱 和哲

分 野: 税務調査対応

 今年5月にいわゆるパナマ文書が公表され、各国の首相や大統領がタックスヘイブン(租税回避地)を利用した資金取引をしていた事実が明るみに出たことで、「タックスヘイブン」や「租税回避」という言葉に注目が集まっている。
 タックスヘイブンとは、法人税等の税金がないかほとんどない国や地域のことであり、ヘイブン(haven)とは、もともとは避難所という意味である。ケイマン諸島などカリブ海に浮かぶ島々がその代表例であるが、香港やマカオ、シンガポールもタックスヘイブンであるとされる。

 

 タックスヘイブンには金融規制が欠如している一方で、固い秘密保持法制があるというのが特徴であり、マネーロンダリングの温床であるとの指摘もある。タックスヘイブンを利用した取引のすべてが課税逃れ又は租税回避というわけではないが、課税逃れ又は租税回避のためにタックスヘイブンが使われる例は少なくない。
 租税は国や社会においてなくてはならないコストであるが、人間には租税負担を少しでも免れたいという本質的欲求がある。そのため、世の中には日々様々な節税商品が生み出され続けている。タックス・シェルターとも呼ばれる節税商品には、多くの場合、タックスヘイブンにおける取引が利用されている。
 例えば、内国法人が海外法人に対して直接資金の貸付けをして利息の支払いを受けた場合、内国法人には利息相当額に対する法人税の課税が生じる。しかし、内国法人がタックスヘイブンに子会社を設立し、タックスヘイブン子会社が海外法人に貸付けをするとした場合、最終的には海外法人に対する貸付けという経済取引がされているにもかかわらず、内国法人には法人税課税が生じないこととなる。
 もちろん、内国法人がタックスヘイブン子会社から配当を受けた場合は法人税課税の対象となるが、少なくとも、それまでの課税は繰り延べられることになる。時間には価値があるから、課税の繰り延べは納税者の利益である。

 

 租税特別措置法には、タックスヘイブンに対する税制が規定されており、「特定外国子会社合算税制」と呼ばれている。特定外国子会社合算税制のもとでは、タックスヘイブン子会社の所得は、親会社又は主たる株主の所得と合算されて国内において課税がされる。
 しかし、上述のとおり、タックスヘイブンを利用した取引のすべてが課税逃れ又は租税回避というわけではなく、むしろ、内国法人が香港やシンガポールに子会社を設立し、当該子会社を通じて経済取引を行うという場合、香港やシンガポールに進出するための事業上の必要性が存在し、かつ香港やシンガポールにおいて実態のある事業が遂行されているのが通常である。このような場合にまで、特定外国子会社合算税制が適用されて、親会社又は主たる株主がタックスヘイブン子会社の所得と合算した所得を申告しなければならないとなると、実際上の必要性のある事業遂行が著しく阻害されることとなる。税制調査会の「昭和53年度の税制改正に関する答申」には、「正常な海外投資活動を阻害しないため、所在地国において独立企業としての実体を備え、かつそれぞれの業態に応じ、その地において事業活動を行うことに十分な経済合理性があると認められる海外子会社等は適用除外とする」とある。そのため、特定外国子会社合算税制には、① 実体基準(主たる事業を行うために必要と認められる事務所、店舗その他の固定施設を有しているか)、② 管理支配基準(特定外国子会社が親会社等から独立して自ら事業を管理、支配しているか)、といった適用除外基準が規定されている。
 特定外国子会社合算税制をめぐる納税者と税務当局の紛争の大半は、適用除外基準の充足の有無に関する争いである。

 

 パナマ文書の公表後、国税庁は「あらゆる機会を通じて情報収集を図ると共に、問題のある取引が認められれば税務調査を行うなど、適正、公平な課税の実現に努めていく」とのコメントを発表した。公表されたリストには、日本企業名や企業経営者の名前も多数含まれるとされている(平成28年5月10日付読売新聞)。
 パナマ文書の公表を機に、タックスヘイブンに関連する書籍も多数出版されている。パナマ文書の公表のインパクトはまだまだ続きそうである。

 

(事務所報 №11 2016年7月号掲載)
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