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年次有給休暇の付与義務

2019年06月

弁護士: 元氏 成保

分 野: 一般労働相談

 労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現する働き方改革を推進するために種々の措置を講ずる必要があるとして、いわゆる働き方改革関連法が成立し、その内容の多くが本年4月1日から施行されています。
その内容は多岐に亘るところ、マスコミ等では、時間外労働の上限規制が法制化されたことを中心に紹介されています。しかし、これは、長時間の時間外労働などといった実態がない企業においては、あまり影響がありません。一方、以下紹介する年次有給休暇の時季指定による付与義務に関する法改正は、あまり報じられていませんが、より多くの企業に影響があり得るものです。

 雇入れ日から起算して6ヶ月継続勤務し、全所定労働日の8割以上を出勤した労働者に対しては、その勤務継続年数に応じた年次有給休暇の付与が義務付けられています(労基法39条)。これは、労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図るため、また、ゆとりある生活の実現に資するという観点から義務付けられているものです。
 ところが、この年次有給休暇は、原則として労働者からの申請によって付与されることとなるため、業務が繁忙状態にあり、あるいは年次有給休暇を申請しにくい職場の雰囲気があるなどといった理由により、労働者がその申請をためらい、結果として、労働者がほとんど年次有給休暇を取得することができない、といった企業も散見されていました。
 そのような状態を是正し、年次有給休暇の取得を進めるため、事業主に、労働者に対して年次有給休暇の取得の時季を指定して与えることが義務付けられることとなりました。

 事業主は、一定日数の年次有給休暇を確実に取得させるため、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者(管理監督者を含む)に対し、そのうち5日について、毎年、時季を指定して与えなければならないこととされました(労基法39条7項)。但し、労働者の時季指定や計画的付与により年次有給休暇を与えた場合は、その日数はこの5日間から除かれることとなります(労基法39条8項)。
 要するに、労働者からの申請や計画的付与による年次有給休暇の付与が5日に満たない場合には、その満たない日数について会社が時季を定めて年次有給休暇を与えなければならないということであり、結果として、労働者は、年5日の年次有給休暇を実際に使うことが確保されることとなります。
 なお、事業主は、労働者毎に年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存しなければなりません。

 労働者が自主的に年次有給休暇を取得しないような場合に、使用者が計画的な時季指定を怠ると、期限の直前になって多数の労働者に一斉に年次有給休暇を取得させなければならない事態となりかねないため、各労働者の年次有給休暇の消化状況を日常から整理して把握しておく必要があります。また、この法改正を就業規則にも反映させ、会社から年次有給休暇の時季を指定することがあり得る旨を労働者に周知させておくことが望ましいとも考えられます。更に一歩進んで、年末年始や夏季休暇、大型連休などに、会社としての年次休暇取得勧奨日を設ける等の対策も考えられます。

(2019年5月)
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