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コラム

暴力団排除をめぐる近時の新たな司法判断

2017年05月

弁護士: 濱 和哲

分 野: リスク管理・不正調査

1. 暴力団対策法に基づく組長への賠償命令

 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(いわゆる「暴力団対策法」)は、31条の2において、指定暴力団の代表者(いわゆる「組長」)の損害賠償責任を規定している。
 当該規定によれば、指定暴力団の代表者は、当該指定暴力団の暴力団員が威力利用資金獲得行為によって他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害につき賠償責任を負うことになる。ここにいう「威力利用資金獲得行為」とは、「当該指定暴力団の威力を利用して生計の維持、財産の形成若しくは事業の遂行のための資金を得、又は当該資金を得るために必要な地位を得る行為」をいう。典型的には、組の代紋の威力を用いるなどして、飲食店等からみかじめ料を徴収する行為がこれに該当する。
 暴力団対策法31条の2は、威力資金獲得行為による被害者が暴力団の代表者に対して直接損害賠償請求をすることを可能とした。そのため、同条が改正により暴力団対策法に追加された後は、全国において、同条に基づく損害賠償請求訴訟が多数提起されたが、これまでのところ、多くの事案は和解により訴訟が終結するか、民法の使用者責任に基づく判決によって事案が終結しており、同条を適用して暴力団の代表者の法的責任を認めた事案はなかった。
 このような状況の中、東京地裁は、平成28年9月29日、暴力団対策法31条の2を適用して暴力団の代表者の責任を認める判決を下した(同日の読売新聞夕刊の記事による)。おそらく、同条を適用して暴力団の代表者の損害賠償責任を認めた初めの事案であり、今後、暴力団の資金獲得活動に対する抑止力になることが期待される。

2. 暴力追放推進センターが当事者となった組事務所の使用禁止決定

 暴力団の組事務所は、暴力団同士の抗争の際には攻撃の標的になり得ることから、付近住民の生活上の不安は極めて大きい。そのため、付近住民が暴力団の組事務所の使用禁止や明渡しを求める事案はかつてより多数存在していた。
しかし、そのような事案においては、付近住民が当事者となって組事務所に対して仮処分や訴訟を提起する必要があることから、当事者となった付近住民に対して暴力団側から報復等がなされる恐れがあり、当事者となる付近住民の心理的負担は極めて大きい。
 そのため、暴力団対策法は、暴力追放推進センター等の団体が付近住民からの委託を受けて仮処分や訴訟の当事者となって組事務所の使用禁止や明渡しの手続を行う制度を設けていた。当該制度のもとでは、暴力団側には当事者となった付近住民が誰であるかが明らかとはならないため、当事者となる付近住民の心理的負担は大きく軽減されることになる。
 平成28年9月29日の読売新聞朝刊の記事によれば、福岡県暴力追放運動推進センターが当事者となった組事務所の使用禁止仮処分事件において、福岡地裁は、 ① 定例会の開催や組員の集合、 ② 組員の立ち入りや常駐、 ③ 同会や山口組の歴代組長、幹部らの写真や名札の設置などを禁止する決定をした。暴力団対策法に基づく暴力追放推進センター訴訟において、組事務所の使用禁止決定が認められた事例としては全国で初めてであるとされる。今後、暴力追放推進センターが当事者となる訴訟や仮処分が積極的に活用されることが期待される。

3. 暴力団排除の推進

 暴力団を社会から排除する責務は警察のみが負うものではなく、住民・企業等社会全体の責務として認識されるようになった。暴力団対策法は、暴力団排除のための活動を強力に後押しする法律である。
上記1及び2における司法判断は、暴力団対策法に関する新たな司法判断であり、今後の暴力団排除のための活動において重要な意味を持つものである。

(事務所報 №15 2017年3月号掲載)
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