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コラム

審判制度廃止後における執行停止申立事案

2017年07月

弁護士: 濱 和哲

分 野: 独占禁止法、下請法

1 平成25年独禁法改正による審判制度の廃止

 平成25年の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独禁法)改正前においては、公正取引委員会による排除措置命令や課徴金納付命令に対する不服申立は、公正取引委員会に対する審判請求によるものとされており、公正取引委員会において当該不服申立に対する審査が行われてきた。
 しかし、同年改正によりこれまでの不服申立制度は廃止されることとなり、改正後においては、公正取引委員会がした処分に不服がある者は、審判手続を経ることなく裁判所に対し訴訟を提起するものとされた。当該訴訟の管轄は東京地方裁判所の専属管轄とされており(85条)、3名又は5名の裁判官が合議体となり事件を審理するものとされている(86条)。

2 仮の救済手続

 平成25年改正前は、排除措置命令に対する執行停止制度として、供託による執行免除制度が存在したが、同年改正に伴う審判制度の廃止と同時に当該制度も廃止された。そのため、公正取引委員会による処分に対する仮の救済手続は、行政事件訴訟法に基づく手続によることとなる。
 行政事件訴訟法は、処分がされた後の仮の救済手続として執行停止の制度を設けており(25条)、執行停止がされるための要件を以下のとおり規定している。
【執行停止の要件】
① 処分に対する取消訴訟が提起されたこと。
② 処分により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があること。
③ 公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、に該当しないこと。
④ 本案について理由がないとみえるとき、に該当しないこと。
 以上の各要件のうち、訴訟実務上、主としてその要件該当性が議論されるのは③の要件についてである。

3 排除措置命令に対する執行停止申立事案

 東京地裁は、平成28年12月14日、排除措置命令に対する執行停止の申立事案に対して、当該申立を却下する決定をした。ジュリスト1504号6頁の記事によれば、審判制度廃止後において裁判所が執行停止申立に対してした初めての事案であるとされている。
 当該決定は、上記③における「重大な損害」要件を、事後的な金銭賠償によるてん補が不可能又は不相当といえるかという基準に基づき判断し、結論として申立を却下する決定をしたが、独禁法違反事件により生ずる損害は、通常は金銭的損害であることが想定され、少なくとも理論上は事後的な金銭賠償が可能といえるから、仮に事後的金銭賠償が可能かどうかという基準を重視するとなれば、およそ執行停止は認容されないこととなってしまう。
 本件が初めての事案ということであり今後の実務の蓄積が待たれるところであるが、仮の救済手続を審理する裁判所には事案に応じた柔軟な判断が期待されるところである。

(事務所報 №16 2017年4月号掲載)
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