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コラム

行政事件における仮の救済手続き

2015年02月

1  現行の行政事件訴訟法は、平成16年法律第84号により大幅改正が行われ、平成17年4月から施行されている。そのため、今年(平成27年)は改正行訴法10年目の年となる。

 周知のとおり、行政事件訴訟法の大幅改正は、「行政に対する司法審査の機能を強化して国民の権利利益の救済を実効的に保障する観点」に基づき見直しが実施され、改正に至ったのであるが(司法制度改革推進本部・行政訴訟検討会「行政訴訟制度の見直しのための考え方」)、施行後の10年間において、改正行政事件訴訟法における仮の救済手続は、「国民の権利利益のより実効的な救済を図る」制度として十分機能してきたといえるだろうか。とりわけ、改正行政事件訴訟法において新たに導入された「仮の差止め」、「仮の義務付け」の申立状況、認容状況はどうであったかについては、十分な検証が必要である。

2  平成26年5月、京都、大阪、神戸を中心に事業を展開するタクシー会社が申し立てた仮の差止め申立事件(運賃変更命令の仮の差止め)において、大阪地方裁判所は、タクシー会社の申立てを認容する決定をした。その後、国は、同決定を不服として即時抗告を申し立てていたが、平成27年1月、大阪高等裁判所は国の即時抗告を棄却する決定をした。そのため、仮の差止め申立事件は、タクシー会社の申立内容を全面的に認める形で終結することとなった。

 「仮の差止め」という仮の救済制度は、改正行政事件訴訟法によって法定された制度であり、その言葉のとおり、行政処分を仮に差し止めるための制度である。改正行政事件訴訟法が「仮の差止め」という救済制度を法定していなければ、上述したタクシー会社の権利救済は実現されなかった可能性があり、その意味において、上述の事件は、行政事件訴訟法の改正によって、「国民(タクシー会社)の権利利益のより実効的な救済」が図られた実例といえよう。

3  ところで、改正行政事件訴訟法施行後10年間において、本件のような救済実例は、どれくらいあるのだろうか。

 筆者は、上述のタクシー会社の認容決定の後、仮の差止め申立事件の認容件数を調べたことがあるが、公表されている資料等で判明する限り、その件数は全国で10件にも満たない件数であった。これは正確な調査に基づく件数ではないが、仮の差止めの認容事例が極めて少数であり、認容率も著しく低い水準であることは確かである。このことは、仮の義務付け申立事件についても同様である。

4  仮の差止めや仮の義務付けの認容率が低いのは、「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要」という要件のハードルの高さに一因がある。申立ての相手方となる国からは、この要件の解釈として、事後的な金銭賠償によって賄われる性質の損害は「償うことのできない損害」には当たらないとの主張がされることがあり、裁判所も、このような解釈を前提に「償うことのできない損害」を認めず、申立てを却下することがある。

 しかし、大抵の事案における「損害」は何らかの方法で金銭評価をなし得る「損害」であるともいえるから、金銭評価が可能な損害は「償うことのできない損害」には当たらないと解すると、仮の差止めや仮の義務付けが認容されるケースはほとんどなくなってしまう。「国民の権利利益のより実効的な救済を図る」ために法定されたはずの「仮の差止め」や「仮の義務付け」の要件を、このように狭く解釈することについては、かなりの疑問がある。

5  改めて上述のタクシー会社の実例に戻ってみると、タクシー会社に運賃変更命令がされた場合に生じるおそれのある損害は、主として営業上の損害であると考えられる。一般に、営業上の損害は、金銭評価が可能な損害であるといえるが、大阪地裁、大阪高裁は、タクシー会社に運賃変更命令がされた場合、「償うことのできない損害」が生じると判断し、タクシー会社の申立てを認めたのである。

 このような実例を機に、「償うことのできない損害」要件について、より柔軟な解釈がなされ、国民・事業者の権利救済が実効化されることを望む次第である。

以上

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