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コラム

BCP (事業継続計画)

2018年10月

弁護士: 濱 和哲

分 野: リスク管理・不正調査

 東日本大震災、熊本地震に続き、本年6月には大阪北部地震が発生し、その直後には西日本豪雨災害が発生した。日本は世界有数の地震大国であり、かつ台風被害も多い国であるから、日本において生活し事業を営む以上、自然災害との共存は避けることのできない課題である。
 自然災害がある度に、「BCP」が注目を集める。BCPとは、Business continuity planning の略称であり、「事業継続計画」のことである。

 

 中小企業庁のHPの説明によれば、BCPとは「企業が自然災害、大災害、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画」のことであるとされる。
 企業や自治体は、年度ごと又は一定のタームでの事業計画(行政の場合は行政計画)を策定し、当該計画に基づき事業活動を遂行し、四半期又は半期ごとに見直しを行いつつ、1年度の事業目標の達成を目指しているが、BCPは平時の事業活動ではなく、大規模災害等により事業継続が著しく困難となった場合の企業の行動指針を定めるものである。

 

 BCPの特徴は、① 優先して継続・復旧すべき中核事業を特定する、② 緊急時における中核事業の目標復旧時間を定めておく、③ 緊急時に提供できるサービスのレベルについて顧客と予め協議しておく、④ 事業拠点や生産設備、仕入品調達等の代替策を用意しておく、⑤ 全ての従業員と事業継続についてコミュニケーションを図っておくことにある」(上述の中小企業庁HP)。

 

 東日本大震災後、多くの企業においてBCPの必要性が認識され整備が進んだとされており、内閣府が平成28年3月に実施・発表した調査結果によれば、大企業におけるBCP策定率は60.4%、中堅企業は29.9%であり、「策定中」「策定を予定している」企業を含めると大半の企業がBCPに対する取組を実施している状況にある。
BCP策定にあたっては、
(1)  そもそもどういった災害や危機事象を想定するのか
(2)  災害や危機事象が勃発した場合、自社にとっての最大のリスクは何であるか
(3)  すべての事業を継続できない状況において、優先して継続させるべき事業は何であり、次に復旧を
優先する事業は何であるか
を順次検討していく必要がある。

 

 そのうち(1)に関していえば、災害や危機事象は地震や台風に限られるわけではなく、テロといった想定不能な事態(そのため自社がどういった事態に陥るかを具体的に想像することが難しい)もあり得るわけであるから、地震や台風といった個別の災害を完全に特定してBCPを策定するというよりは、(その原因は何であれ)自社の生産設備のすべて稼働不能となった場合であるとか、従業員の大半が被災し出勤不能となった場合といった現に生じた事象を前提に、継続すべき事業の優先順位を判断していく考え方が有用であると考えられる。

 

 また、BCPは策定自体が目的ではなく、これが社員に共有され、かつ随時の見直しを図っていく必要がある。社内の人員や組織体制が変われば、災害時の指揮命令系統も異なるであろうし、自社をめぐる事業環境の変化に伴い優先されるべき事業も当然に変わることが予想される。そのため、少なくとも年に1度の割合では、策定したBCPがその時点における自社の状況と適合したものであるかを検証しておくことが望ましいといえる。

 

 かねてより、近畿圏・東海圏に関しては、南海トラフ地震や三連動地震の危険性が指摘されており、首都圏に関しても首都直下地震の危険性が繰り返し指摘されている。未曾有の災害が発生した際、各企業が、自社の社員を守りつつ、事業を継続し災害を乗り切ることができるかは、まさにBCPの策定と不断の見直しにかかっていると言っても過言ではないだろう。

 

(2018年8月)
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