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コラム

カスタマー(顧客)ハラスメント

2018年07月

弁護士: 濱 和哲

分 野: リスク管理・不正調査

 厚生労働省が、企業に対する顧客からの暴言や脅迫等の「悪質クレーム」について、職場のパワーハラスメント防止に関する報告書案に盛り込むことを検討している。背景には、悪質クレーム被害の声が多くあるとされ、労働者の安全への配慮が求められる点において、客からの迷惑行為は職場のパワハラと類似性があるという。報告書案には、「カスタマー(顧客)ハラスメント」が明記される方針である(平成30年3月15日付産経新聞朝刊)。

 

 悪質クレームは、消費者を顧客とする企業に多くみられる。ある労働組合の調査によれば、コンビニ等の従業員の約7割が悪質クレームを受けているという。「『バカ』『死ね』などと暴言を受けたり、買い物かごや小銭を投げられたりした事例もあった」とされる(同日付産経新聞朝刊)。

 

 行政機関に対する悪質クレームも無視できない。悪質クレームの枠を超えて、明らかに刑法犯に該当する行為もある。宝塚市役所における放火事件は記憶に新しく、先日は金沢市役所において男性が刃物を振り回した事件の報道もあった。

 

 企業や行政機関は、悪質クレームにどのように対応すべきか。悪質クレームに晒される従業員や職員を雇用する使用者の立場からすれば、従業員や職員の身の安全を守る必要がある一方、顧客や利用者の意見・要望がどの程度の水準に至った場合、それを「悪質」と判断してよいかの明確な基準がないため、どうしても受け身の応答にならざるを得ない。一概に「クレーム」といっても、その中には正当な意見や指摘が含まれる場合もあり、企業や行政機関側の落ち度がきっかけとなってクレームに発展するケースもある。悪質クレームかどうかは、クレームに至る経緯、クレームの内容及びクレームの態様から個別的に判断していくしかない。

 

 顧客や利用者からのクレームが悪質クレームであると判断された場合、企業や行政機関としては、通常の顧客・利用者対応からは明確に切り替えた対応として、慎重に対応を進める必要がある。悪質クレームが調停や訴訟といった法的紛争に発展するケースもあることから、法的紛争を見据えた証拠化・記録化も重要である。

 

 悪質クレームへの対応としては、弁護士がクレーマーに対し内容証明郵便等の方法で通知書を送付して、クレーム(不当要求)を差し控えるべきことを通知することが考えられるが、それでも要求が収まらない場合、企業や行政機関の職員との接触を禁止する仮処分命令の申立ても検討すべきである。裁判所の仮処分命令を得た場合、間接強制によって履行を確保することも可能となる。

 

 企業の事業運営及び行政機関の活動の過程において、顧客や利用者との間でクレームが生じることは不可避である。企業や行政機関は、悪質クレームがあった場合にどのように対応すべきかをあらかじめ検討し、マニュアル等を制定した上で、従業員や職員に周知しておく必要がある。悪質クレームがなくなることがない以上、悪質クレームに対応する体制を整備しておくことは企業・行政機関の責務であるともいえよう。

 

(2018年4月)
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